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大阪地方裁判所 昭和63年(行ク)3号 決定

申立人

蔭山弘子

右代理人弁護士

辛島宏

浦功

大石一二

梶谷哲夫

被申立人

大阪市長

西尾正也

右代理人弁護士

千保一廣

江里口龍輔

主文

一  被申立人が昭和六三年九月八日付で申立人に対してした大阪市立港区民センターの別紙使用許可目録記載の各使用許可の取消処分の効力を停止する。

二  申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一申立人の申立の趣旨及び理由は、別紙(一)、(二)記載のとおりであり、被申立人の意見は、別紙(三)記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件記録によれば、被申立人が、申立人に対し、昭和六三年九月八日付で申立人に対する大阪市立港区民センター(以下「本会館」という。)の別紙使用許可目録記載の各使用許可(以下、右目録の番号にしたがい「本件(一)の使用許可」、「本件(二)、(三)の使用許可」といい、右各使用許可を「本件各使用許可」と総称する。)を取消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたことが認められ、申立人が、当裁判所に対し、被申立人を被告として、本件処分の無効確認及び取消の訴え(当庁昭和六三年(行ウ)第五五号)を提起し、現在審理中であることは、当裁判所に顕著な事実である。

2  次に、本件記録によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  「日の丸」焼き捨てを支援し、沖縄と本土のたたかいを結ぶ関西知花裁判を支援する会(以下「支援する会」という。)は、昭和六二年一〇月二六日沖縄県中頭郡読谷村において行われた国民体育大会少年男子ソフトボール競技会会場に掲揚された日章旗を引き降ろしてこれを焼き捨てたとして、器物損壊、威力業務妨害等の罪で起訴された知花昌一と、右知花昌一を逮捕しようとした警察官に暴行を加えたとして、公務執行妨害罪で起訴された知花盛康の右各行動を支持し、右訴訟を支援する諸活動をする目的で結成された団体であるが、申立人は、その事務局担当者であり、後記知花裁判支援全関西集会(以下「本件集会」という。)の呼びかけ人の一人である。

(二)  支援する会は、昭和六三年七月中旬ころ、知花昌一と知花盛康を招へいして、その話を聞き、広く支援する会への参加を呼びかけることを目的として、同年九月一七日午後六時から同九時までの間(開場は午後五時三〇分)、本会館で知花裁判支援全関西集会と称する集会を開催することを企画した。申立人は、同年七月二八日、支援する会の事務局担当者として、本件集会の会場として予定した本会館に赴き、所定の申請書に、使用日時を同年九月一七日午前九時から午後九時まで、使用目的を知花裁判支援集会、人員を五〇〇名、主催者及び申請人を支援する会・蔭山弘子(申立人)と記載して、本会館のホールと付属設備の拡声装置一式の使用許可を申請し、同日、被申立人から、大阪市港区長を通じて本件(一)の使用許可を受け、室使用料三万一二〇〇円及び付属設備使用料四〇〇〇円、合計三万五二〇〇円を支払った。さらに、申立人は、同年八月二五日、準備のための控室及び託児室として使用するため、本会館一階の和室、集会室1(いちょう)及び同2(桜)の各使用許可申請をし、同日、被申立人から、大阪市港区長を通じて本件(二)、(三)の使用許可を受け、室使用料合計一万一一六〇円を支払った。

(三)  支援する会は、本件(一)の使用許可を受けた後、集会の趣旨、集会の日時、場所等を記載したポスター六一〇〇枚、ビラ約一四万枚、パンフレット三五〇〇部を印刷し、これらを掲示又は配布するなどして、本件集会を宣伝して、広く集会への参加を呼びかけ、集会参加予定者には整理券を発行した。

(四)  ところが、被申立人側は、同年九月三日、支援する会の事務局に、電話で、本件集会が本会館の管理上好ましくなく、また、付近住民に及ぼす影響が大きいので本件各使用許可を取消すことを内定したので、右各使用許可申請を撤回することを要望したい旨の連絡をし、同月四日、その真意を確認するため本会館に赴いた申立人をはじめとする支援する会の呼びかけ人らに対して、本件集会と同趣旨の東京、仙台、沖縄の集会で、集会参加者と反対派の間で混乱があった例を挙げて、本件集会においても、市民が危害を受けたり、会場の施設が破壊されたりするおそれがあるとの説明をし、本件各使用許可を取消す予定であることを告げた。そして、被申立人は、同月八日、申立人に対し、申立人の申請にかかる本会館の使用は、大阪市区役所附設会館規則(以下「規則」という。)四条に該当するので、同条に基づき、本件各使用許可を取消す旨の通知書を送付した。

(五)  なお、本会館のある建物には、三階に大阪市立港図書館、四階以上には、集合住宅である弁天第二コーポがあるが、右図書館は、本件集会の開場前の午後五時に閉館となり、弁天第二コーポの入口は、本会館の入口とは峻別され、右建物の同入口のある側とは反対側にあり、本会館の入口側から、弁天第二コーポ入口側に至るには大きく迂回しなければならない。

3  右に認定した事実によると、支援する会は、本件(一)の使用許可を受けた後被申立人側から使用許可申請の撤回を求められるまでの一か月余りの間、多額の費用と労力をかけて本件集会の準備をし、宣伝活動を行っており、本件各使用許可の取消処分がなされたのは、本件集会予定日のわずか九日前であるから、申立人が、支援する会の事務局担当者として、右集会予定日までに、本会館とは別の会場を確保し、しかも、会場の変更を多数の参加予定者や参加を考慮している者に周知させることは、きわめて困難であり、しかも本件集会の規模、準備状況、その趣旨、目的等に鑑みると、右集会を一旦延期して近日中に別の会場で開催することも会場設備の確保や財政的負担の著しい増大等から困難であることが窺われるのであって、本件集会は、本件処分によって本会館の使用が不能となれば、その開催が不能となるか、又は著しく困難となることは明らかである。したがって、本件処分によって申立人に生じる右不利益は、回復困難な損害ということができ、右損害を避けるために本件処分の効力を停止する緊急の必要があるものというべきである。

4  被申立人は、本件各使用許可につき、規則四条一項一号、三号ないし五号、七号に定める会館使用許可の取消事由が存し、本件処分は適法であるから、本件申立は、本案について理由がないとみえるときにあたると主張する。

本件記録によれば、規則四条には、本会館の使用許可の取消事由として、「公安又は風俗を害するおそれがあるとき」(一号)、「他の使用者に迷惑を及ぼすおそれがあるとき」(三号)、「建物又は附属設備を損傷するおそれがあるとき」(四号)、「管理上支障があるとき」(五号)、「その他市長が不適当と認めるとき」(七号)と定められていること、昭和六三年四月から同年六月にかけて、東京(全日本水道労働組合会館)、同(明治公園)、仙台(宮城県労働福祉会館)、沖縄(読谷村中央公民館)で、本件集会と同様の趣旨、目的で開催された集会において、いわゆる右翼団体等集会に反対する団体が妨害行動を行い、会場周辺で主催者側ともみ合う等の混乱が生じ逮捕者が出たり、会場の窓ガラスが割られたことがあることが一応認められるが、右集会によって付近住民等に具体的に迷惑が及んだことを認めるに足りる疎明はないうえ、支援する会は、いわゆる中核派に属するとみられる者も参加しているが、婦人団体役員、部落解放同盟役員、牧師等特定の政治的集団に属しない多種多様な職業、経歴の人達がともに世話人として運営している団体で、いわゆる中核派がその暴力的活動を行うことを目的として組織した団体とは認められず、本件集会の趣旨、目的自体を反社会的活動とみることはできないこと、従前の同種の集会において混乱が生じたのは、いずれも右集会の趣旨、目的に反対し、実力によって集会の開催を阻止しようとするいわゆる右翼団体等の違法な妨害行動にその原因が存するのであって、集会の主催者の責に帰すべき事由によるものとは認めがたいこと、かかる憲法上保障された集会、言論、表現等の自由を実力によって妨害、阻止しようとする一部団体等の違法な行為に対しては警察当局の適切な警備が当然見込まれること、その他前記2で認定したとおり、本会館上階の図書館の利用時間が本件集会の開場前に終了し、本館の入口と上階の住民使用の入口とはかなり離れた場所に別けられていることなどの事情をも総合考慮すると、従前の同種集会における妨害者の違法行為による混乱のみを理由にして直ちに本件集会が規則四条の定める右使用許可取消事由に該当するとみることができるかは甚だ疑問であるといわざるを得ず、また、他に右取消事由にあたる事情が存することの疎明はないから、本件申立が「本案について理由がないとみえるとき」に当るということはできない。

5  本件記録によっても、本件処分の効力を停止することによって、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることを一応認めるに足りる疎明はない。

6  よって、申立人の本件申立は、理由があるからこれを認容し、申立費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官佐々木洋一 裁判官朝日貴浩)

別紙使用許可目録

(一) 昭和六三年七月二八日付使用許可申請 同日許可

整理番号五三八号

使用日時 同年九月一七日午前九時から午後九時まで

使用施設 ホール

(二) 同年八月二五日付使用許可申請 同日許可

整理番号六四三号

使用日時 同年九月一七日午前九時から午後九時まで

使用施設 和室

(三) 同年八月二五日付使用許可申請 同日許可

整理番号六四四号

使用日時 同年九月一七日午後五時から午後九時まで

使用施設 集会室1(いちょう)

同  集会室2(桜)

別紙(一)

申立の趣旨

被申立人が昭和六三年九月八日付で、申立人に対してなした大阪市立港区民センター(ホール、集会室1[銀杏]、集会室2[桜]、和室)の使用許可取消処分の効力を停止する。

申立費用は被申立人の負担とする。

との裁判を求める。

申立の事由

第一、当事者

一、申立人は「関西知花裁判を支援する会」の事務局を担当しているものであり、昭和六三年九月一七日大阪市港区民センターで開催を予定している「知花裁判支援全関西集会」(以下本件集会という)の呼びかけ人の一人である。

「関西知花裁判を支援する会」は、その正式名称は、「『日の丸』焼き捨てを支援し、沖縄と本土のたたかいを結ぶ関西知花裁判を支援する会」といい、「一九八七年(昭和六二年)一〇月二六日沖縄国体読谷会場において「日の丸」を引き降ろし焼き捨てた知花昌一氏の決起を支持し、権力の弾圧や右翼・反動分子の攻撃から守りぬいて、知花昌一氏と知花盛康氏の裁判闘争を支援し、勝利させるために、」

(一)、毎回の公判に代表を派遣し、傍聴・支援闘争に参加する。

(二)、裁判闘争支援の資金カンパをする。

(三)、関西の地で、集会開催など知花裁判の大衆運動を組織する。

(四)、会報、ニュースなどの発行。

(五)、その他、裁判支援および沖縄県民のたたかいに連帯し、沖縄と本土のたたかいを結ぶための諸活動。

を、行うことを目的として設立された任意団体であり、申立人のほかに桑原重夫(日本基督教団摂津富田教会牧師)、瀬川博(部落解放同盟荒木支部長、東大阪市議)、永井満(三里塚決戦勝利全関西実行委員会代表)、小林巳鶴子(婦人民主クラブ関西協議会代表)等の世話人によって運営されており、年齢も八〇代から二〇代、職業、所属、思想、信条も多種多様な人々が参加し、知花氏支援で一致して活動している団体である。

二、被申立人は、港区民センターの使用についての管理及び運営について権限を有する者であり、平素はその権限を大阪市港区長に代行させている。

第二、被申立人の港区民センター使用許可処分

一、「関西知花裁判を支援する会」(以下単に「支援する会」という)は、昭和六三年七月中旬頃、昭和六二年一〇月の沖縄国体で「日の丸」を引き降ろし、焼き捨てた知花昌一氏の決起を支援し、知花昌一及び知花盛康両氏の裁判闘争を支援するために、両氏を呼んで話を聞き、広く「支援する会」への参加を呼びかけようとする事を目的として、昭和六三年九月一七日大阪市立港区民センター(以下本会館という)で集会(以下本件集会という)を、開催することを企画した。

申立人は、「支援する会」の事務局として本件集会の会場を確保するために、昭和六三年七月二八日に、本会館一階のホール及び附属設備として拡声装置一式の使用許可申請を行なったところ、被申立人は、大阪市港区長を通じて同日、申立人の右申請を承認し、申立人に対し本会館ホール等の使用料として合計金三五、二〇〇円を領収してこれを許可した。

さらに申立人は、準備のための控室や、託児室を確保するために、同年八月二五日に本会館一階の集会室1[銀杏]、集会室2[桜]、和室の使用許可申請を行なったところ、被申立人は、大阪市港区長を通じて同日申立人の右申請を承認し、申立人に対し本会館一階集会室1、2、和室の使用料として合計金一一、一六〇円を領収してこれを許可した。

ここに、申立人の本会館一階のホール等の使用は何の妨げもなく、申立人の集会を開催しうることとなった。

第三、被申立人の右センター使用許可取消処分

一、申立人ら「支援する会」は、昭和六三年八月中旬から多額の費用をかけて集会案内ビラ、パンフレット、ポスター、入場整理券を印刷し、本件集会の宣伝を始め、多くの市民、労働者、学生に本件集会の参加を呼びかけているさなか、被申立人は昭和六三年九月三日になって突然、本会館館長の白石氏より、申立人あてに事務局連絡先へ電話連絡があったが、当時申立人は不在であったため、電話を受けた人物が用件を聞いたところ、「館の管理上好ましくなく、又付近住民に及ぼす影響が大きいので館の使用許可を取り消すことに決定した」との事であった。

同日夕刻この連絡を受けた申立人は、取り急ぎ他の本件集会の呼びかけ人に連絡し、翌同月四日都合のついた呼びかけ人の瀬川博、国賀祥司、西元和臣及び申立人の四名が本会館へ行き、館長の白石尊および港区役所の区民室長本田栄治と話し合ったところ、右両氏は「使用許可取り消しは、まだ正式には決定していない。主催者の方で止めていただくことをお願いするが、聞き入れて貰えないときは正式に決定する方針を市として既に決めている。理由は、今年全国で四回(四月東京、六月宮城、東京、沖縄)で開かれた同種の集会において、右翼との間で混乱がおき、逮捕者や怪我人がでており、今回もそのおそれが強いので、区民の生命・財産を守るためだ」という事であった。

これに対して、申立人ら呼びかけ人は、「右翼の妨害があるからと言って、集会の許可を取り消すことは集会の自由を自ら否定することだ。不当な暴力的威圧に屈せず、民主主義を守ることこそ、区民の生命・財産を守るために最も必要な事ではないか。混乱が起こるから集会をさせないというのでは、まさに右翼の思いどおりになることではないか。会館、市当局が毅然とした対応をすれば、右翼の妨害など恐れることはない。我々主催者も万全を期す」と説得し、許可取消し処分が違憲・違法・不当なることを説明して許可の取消し処分をしないように要請したが、結局右両氏は聞き入れてくれず、「話し合っても態度は変わらない。正式に文書で通知することになる。あとは裁判で争うことになるだろう。裁判所の決定には従う。」との態度であって、話し合いは物別れに終わり、その後、申立人らは大阪市市民局市民部振興課長ら当局責任者との協議の機会をもったが、市当局は態度をかえなかった。

その後、同月八日になって、被申立人は文書で本会館使用許可を取消す旨の通知を申立人に発送し、申立人は同月九日にこれを受領した。

第四、本件取消処分の無効、違法性

一、本件取消処分は、憲法二一条、同一四条に違反して、故なく申立人らの集会、結社、表現の自由を禁止し、侵害し、また申立人らをその思想・信条と所属する集団、結社の故に差別的に不利益に扱うものであり、また地方自治法二四四条三項が、「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」と規定しているのに反して違法、不当な差別的取扱いを行うものであり、更には区役所附設会館規則に該当する事由がないのに一旦、有効に行った会館使用許可を取り消したものであり、それも申立人らの集会開催の間際になって根拠なしに行ったものであり違憲、違法かつ著しく不当なる取消し処分であり、何ら正当な根拠もなしに憲法体系上、最も重要で、優越的な地位を占める集会、結社、表現の自由という基本権を否定する本件取消し処分は本来当然に無効であり、然らずとしても明白かつ重大な瑕疵があるものとして違法、不当な処分としてその取消しは免れない。

二、いうまでもなくすべての法律の正当性の根拠は、法律が人民の、人民による、人民のために制定されていること、民主主義によっていることにあり、市民に集会、結社、表現の自由等の政治的活動の自由があってこそ、初めて民主主義が健全に機能するものであり、民主社会にあっては、憲法その他全法律体系上、集会、結社、表現の自由は最も重要かつ優越的な基本的人権を構成するものであって、この権利は全市民に等しく絶対不可侵のものとして保障されるのであって、個々の市民が多数派を構成するか否か、政府や裁判所や検察庁や警察に批判的か否かなど思想信条や所属する集団、結社などに関係なく平等に保護されなければならず、戦前の治安維持法体制下のように明白かつさし迫った具体的な重大な危険もないのに、抽象的な公安維持の名目でこの重要な基本権を制約してはならないことはいうまでもない。

また、本件の如く市民に利益を付与した行政行為(許可処分)の撤回には重大な制限があり、何ら重要な事情の変更もなく、申立人らの責に帰すべき事由がないのに恣意的に使用許可の取消処分が許されないことは行政法上の基本原理といわれる行政行為撤回不自由の原則からして当然であり、この原則を無視した本件取消処分の違法性は高い。

三、申立人らは、その主張し、追求する知花氏支援の目的を達成するため、多くの市民の賛同を得て、更に世論をリードし、運動を強化しようと考えて今回の集会を計画準備してきたものであり、申立人らの集会、結社、表現活動を故なく禁圧せんとすることは、社会的な人間としての生命を絶てというのに等しい重大なる人権侵害といわねばならない。

四、今回の申立人らの集会も屋内において申立人らが一般市民、学生、労働者等を集めて平穏かつ真面目な適法な報告、討論、集会をなさんとするものであり、もとより何らの武器を携帯するものではなく、何らかの犯罪を企てたり、共謀したり、暴力行為をなさんとするものでないことはいうまでもない。

五、被申立人が、何故本件取り消し処分をしたのかその具体的動機や背景は不可解であり、「なぜ、会場を貸したか。」と抗議して来る人達やイヤガラセをする人達がいるというのであれば、集会、結社、表現の自由に対する不当な批判者に対しては無視するか、毅然たる態度をとり、違法行為、犯罪行為を行うものがあれば、法に照らして断固たる処置をとるべきである。

いやしくも、集会、結社、表現の自由を行使する申立人らに対する違法、不当な反対者、妨害者がいるからとの理由で、集会、結社、表現の自由を享受する申立人らの活動を公権力が使用許可処分の取り消しによって禁圧してしまうのは本末転倒であり、民主主義を滅亡させるに等しい。被申立人の論法を押しすすめれば、思想、信条における反対者、敵対者が実力を振るう可能性があるから新聞の発行もするな、記事内容も自主規制せよということになる。

何よりも率先して憲法を擁護、遵守し、集会、結社、表現の自由を保障すべく、公権力の行使をしなければならない被申立人が、集会許可取消の方法で、これを侵害することは許されない。

六、最近は、朝日新聞阪神支局に対する襲撃事件など、言論の自由に対する暴力的威圧やテロ行為など時代錯誤的、反民主主義的、反憲法的な違法行為、犯罪行為、暴力行為が散見されるところであるが、「思想、信条が異なっても、それは言論で勝敗をつけるべきで実力行使は許されない」との判旨のもとに「宮城、知花昌一氏のたたかいに連帯する会」に押しかけて、集会を妨害した男に実刑判決をしたのが、仙台地方裁判所の立場であり(同地方裁判所昭和六三年八月三〇日判決)、また、この種の会場使用許可処分取消処分の執行停止をいずれも認容しているのが、全国の裁判所の判例であり、その結果、「この種事案はすべて執行(効力)停止事件によってそのすべてが解決され、本案訴訟は時間の経過によってその利益を失うことになるところから、行政庁においてより慎重な判断をなすことが望まれる。」と判例時報によってコメントされているとおりである。(判例時報・七九五号四二頁。なお東京都北区公会堂に関する東京地裁昭和四三年五月二〇日決定[判例時報・五一七号二三頁]、広島市公会堂に関する広島地裁昭和四四年九月二日決定、同広島高裁同月三日決定、大阪市中央公会堂に関する大阪地裁昭和四四年七月二一日決定、同大阪高裁同日決定[判例時報・五七五号二八頁]、鹿児島中央公民館に関する鹿児島地裁昭和四八年四月二六日決定[判例時報・七一六号三七頁]、北九州市立市民会館に関する福岡高裁昭和五〇年六月一一日決定、安芸市民会館に関する高松高裁昭和五〇年八月一四日決定[判例時報・七九五号四二頁]等参照)

七、いずれにしても、憲法二一条、同一四条地方自治法二四四条三項、区役所附設会館規則に違反する被申立人の取消処分は当然に無効であり、かりに然らずとしても違法にして重大、明白な瑕疵があるものとしてその取り消しは免れない。

第五、本件取消処分執行停止の必要性と緊急性

一、申立人は、被申立人を被告として、前記取消処分について無効確認又は取消を求める行政訴訟を本日提起した。

二、しかし、右本訴の判決を待っていたのでは、申立人らの予定していた九月一七日の集会の開催はできず、申立人らが多大の時間と費用と労力を注ぎ込んで、ポスター・ビラ・パンフレット、入場整理券を印刷準備したり、これを掲示、配布したり、同志、市民、学生、労働者ら多数に宣伝・広告したり、スケジュールのある報告者、講師や多数の参加予定者の予定が無駄になり、集会の時期を失し、集会そのものが不可能となり、かつ、今更取消処分があったとしても、代替会場の確保は不可能であり、印刷や宣伝や多数の関係者、市民、学生、労働者への連絡、広報を周知することは実際問題として不可能であり、予定の変更、中止は困難である。申立人をはじめ主催関係者が、多数の参加予定者に、回復の困難な多大の損害が生じ、申立人らの集会、結社、表現の自由の著しい侵害はとうてい看過することは許されない。

三、なお、基本的人権については、公共の福祉に対する明白、かつ、現在の重要なる具体的な危険があるときに限って、必要最少限度の制約はやむを得ないと解する余地があるが、本件は屋外の示威行進等の表現活動ではなく全くの屋内集会であり、一般通行者など街頭の市民に対する影響はなく、また申立人は一階全部の使用許可を受けているうえ、区民ホール専用出入口と居住棟出入口は完全に建物の構造上で区分されているので、常識的に住民が迷惑を蒙ることはあり得ない。

また、他の会館使用者についても、図書館は午後五時までが開館時間であり、他に一階の使用許可を受けたものはいない。従って、本件においては、何ら明白、現在の重要なる具体的な危険性は何ら生じないのである。

また、被告が引用する根拠のない薄弱な情報による同種の過去の集会においても、一般の住民、市民に危害が生じた事実はない。

四、なお、仄聞すれば、被申立人に対して、本件許可処分後、申立人らの思想、信条、集会結社を快しとしない筋からの、ある種のイヤガラセや中傷や政治的圧力を加えられたものと思われるが、適法な集会、結社、表現の自由に対して、万一、不当、違法なイヤガラセや、中傷、妨害の可能性があったとしても、それを口実に公権力が適法な集会、結社、表現の自由を禁圧することは許されないことが当然である。

五、おそらく本件は、被申立人は行政に対する風当たりを避けることなかれ主義と、憲法擁護の断固たる姿勢がないままに、公権力の行使を誤り、自ら一旦許可した処分を取り消して、申立人に犠牲を強いるか、もしくはこれを裁判所に走らせて、責任転嫁をはかったものであろうが、申立人らとしては、重大な違憲性をもつ許可取消処分は当然に無効と解しているが、混乱を避け整然と平穏な屋内集会を成功させるため、人権の最後の砦である裁判所に急拠、基本的人権の救済を求めて本申立に及んだ次第である。

別紙(二)

一、頭書事件について被申立人から九月一二日付意見書が提出されており、その結論、理由ともに憲法二一条、一四条、地方自治法二四四条三項及び区役所附設会館規則に違反する失当なものであり、申立人の申立書の所論に照らして採用出来ないこと明らかであるが、若干の反論及び補説をしておきたい。

二、先ず、申立人らが本件港区民センターで集会を企画したのは公知のように大阪市では、港、大正の両区において最も沖縄出身者が多く、かつ本件会場が交通至便であり、更に五〇〇名という多人数の参集が可能であり、会場使用料も著しく高額ではないからであり、知花裁判の意義と支援を沖縄出身者の多い港区の本件会場で開くことが必要不可欠だったからである。

被申立人は、八項において「他の代替会場を探すことも可能であったといえる。」と無責任な放言をしているが、先の条件を充足する会場を具体的に示していただきたい。

また、他の具体的会場が示されたとしても、その会場が被申立人同様に右翼その他の反対者からの文書や電話でのイヤガラセや抗議や脅迫があり、被申立人と同じ論法で集会を開くなと取り消し処分が出されたなら申立人らは永久に五〇〇名規模の集会を開けなくなるではないか。

被申立人の論理を押しすすめていけば、申立人らは、右翼その他の反対者が反対する限り、言論、集会、結社その他の表現の自由を享受出来なくなるのではないか。

被申立人は日本が民主国家、自由国家であることを承認するのか否認するのか。

憲法と基本的人権と法令の擁護義務のある公務員として、国民の表現の自由、政治的活動の自由を口先だけでなく真実認めるのか否認するのか。

被申立人ら公権力は、右翼や、反対者が反対し妨害するからとの理由で少数者(公権力と意見を異にする者の意味)の集会、表現の自由を侵奪する行政を行って良いのか。

そうだとすれば、右翼その他反対者の電話と街宣車と実力行使の脅迫で、すべての少数者の集会、表現の自由が消滅してしまうのではないか。とすれば、現在の日本は全体主義国家やファッシズム国家と呼ばなければならないのか。

申立人らは、合法的に平穏な屋内集会をする権利すらもなく、一旦有効に許可された会場使用も故なく被申立人の公権力によって否認されなければならないというのか。

三、憲法とその理念に従って本件の各法令を率直にみれば、被申立人の所論の不当なること明らかである。

(一) 大阪市区役所附設会館条例第二条に「会館は、市民一般の集会及び健全な各種行事の用に供し、社会生活の利便を図ることを目的とする。」とあるのは、本件の申立人らの企画した裁判支援集会も、前記集会にあたることはいうまでもない。

市民が憲法上の集会、表現の自由を享受するために本件会館を使用できることは会館設置目的に十分適うことである。

(二) また、申立人が、七月二六日、八月二五日にホール等の使用を許可したことも適法正当である。蓋し被申立人は、会場使用の重複を避けたり、時間や人数の調整のために許可権限を行使することは許されるが、集会の主催者や集会の内容如何によって集会の許可を定めるのは表現の自由や法の下の平等に反して許されないのだから。

(三) 申立人らは平穏な屋内集会を多数の参加者を集めて成功裡にかつ合法的に秩序正しく開催したいと考えて本件集会を企画したものであり、本件集会において、又はその前後に右翼や反対者と実力闘争したり、会場内外の善良な市民や物に危害を加える目的や希望をもっていないことも疎明資料によって明らかである。

(四) また、申立人らの関西知花裁判を支援する会は、広汎な関西在住の呼びかけ人(主催者)からなっており、各地の知花支援のための会とは別組織であり、別の構成員からなっており、独立して運営されている。従って、各地の知花支援団体と申立人らとをそのまま混同することは誤りである。いわんやこの会と中核派とは別組織であり、これを同一視することも誤りである。

(五) また、各地の知花支援の会の集会には、右翼妨害があったケースもなかったケースもあり、さほど大きな混乱もなく、それぞれの集会は成功裡に終わったものである。(疎甲第二〇号証)

(六) 本来、申立人らの企画する本件集会は、屋内における平穏な合法的正当な集会であるから第三者がこれを実力で妨害したら、威力又は偽計業務妨害となり、またこれを妨害したり混乱させると脅迫し、集会の中止を強要するものがあれば、これを告訴、告発又は警告するなどして当該第三者を厳正に取締ることは可能であり、第三者といえども申立人らの集会を脅迫や実力で妨害出来ないこというまでもない。

警察や被申立人らは万が一右翼その他第三者の妨害や脅迫、強要の動きがあれば、毅然と警告し、又は警備をすれば足りるものであり、犯罪が行われれば、速やかに検挙し取締るべきであり、いやしくも適法に憲法上の集会、表現の自由を行うものに業務妨害や脅迫や強要など犯罪を行うものが、ある可能性があるからといって犯罪者を野放しにして、適法に集会を行うものにこれを禁止させるなどというのは本末転倒である。

(七) また、右翼といえども宣伝カーで街頭宣伝を行うには、道路交通法上警察の許可を要するものであり、申立人らの屋内集会の自由とこれに反対する者の街頭宣伝の自由とが競合する時には、先着順で、警察が交通整理をし、例えば、後から申請のあった街宣車の通行コースを変更したり、マイクのボリュームを下げる騒音規制や集会とかちあわないように時間規制や巡回回数規制をさせるなどして、必要不可欠の許可条件をつけたり調整、指導は可能の筈である。これら必要な調整、指導はなされたのであろうか。

警察が右の調整指導や、警備や取締りを漫然もしくは殊更怠っておきながら、被申立人が警察に協力要請もせずに、右翼が実力行使に出る抽象的可能性があるとの口実で適法な集会、表現の自由を制限することは許されない。

本件においては、被申立人の疎明方法(疏乙第二三号証)によれば、警察は念のため「集会の前日から当日にかけて多数の部隊をもって警戒警備を行う」と言っているそうであり、不必要と思われるが、万全の備えが期待出来るのである。しかし、警察が本件会場周辺に右翼の街宣車の出動を許可したのだろうか。何らの条件、制限や許可の取り消しをしていないのだろうか(警察から詳細な情報を受け取り得る立場にある被申立人の釈明を求める。)。

あるいは、警察は右翼に街宣車の本件集会場周辺への出動と街頭宣伝を認めてこれを自由にさせておきながら、被申立人が申立人の適法な屋内集会を禁止させるというのだろうか。

また、疏乙第一一号証によれば、被申立人は、右翼等から、集会を認めれば「必ず阻止する。」「当日は三〇〇台以上来るぞ」「電話一本で全国から来て港区は大変なことになる。」「知花を狙っている者がいて必ず乱闘が起きる。」「建物の破壊がある。」「大混乱が起き、住民に迷惑がかかる。脅しではなくトラブルが発生する。」などとの脅迫を受けて許可処分の取り消しを強要された旨を得々として書いているが、かかる犯罪行為に対して、被申立人は、告訴、告発及び捜査依頼など厳正な対処をしたのだろうか。

(八) 本件集会など、政治的社会的集会に対して、反対者らが様々な機会や名目で中傷的、妨害的なイヤガラセ電話を主催者や行政当局に入れることは往々にしてみられることである。しかし、イヤガラセ電話は所詮イヤガラセ電話であって、実行行為に結びつく実質的具体的可能性は皆無である。イヤガラセ電話をするような反対者は十分に算盤勘定が出来ており、逮捕されたり刑務所に行くような行為をしないものである。

(九) また、申立人が区民の多くが診療に訪れているという近所の松浦診療所(検疏乙第一号証の八)の医療法人南労会理事長松浦良和氏も集会の自由を求めて貴裁判所及び被申立人に要請書(疏甲第二六号証)を出しているのであり、多数の住民や多くの人々が、集会の自由を守るように要講書を貴庁に出しているところである。

(一〇) また、被申立人が提出した昭和五〇年七月二日付の集会許可取消処分の執行停止却下決定と抗告棄却決定(疏乙第二六号証の一、二)は、決定文自体で明らかなように、代理人弁護士がつかずに当事者本人が争った事件であり、主張・立証が尽くされておらないうえ、右事件の集会は、いわゆる中核派、革マル派の乱闘事件で、死者三名、負傷者多数の重大な結果が出て一ヶ月後に、現場から近い場所で集会をしようとしたものであり、場所的、時間的にみて重大な結果の再発が裁判所によって予想されたというものであり、事実認定も当事者申立事件のせいで適切ではなく(従って、おそらく判例集に掲載されていない。)、また本件と全く事案を異にするので先例的価値はない。かえって右決定に関与した奥村正策、山崎恒裁判官は、新たに民事二部で合議体に入った辻中栄世裁判官と三名で同年八月一五日付決定で、同種の事件で集会許可取消処分に執行停止を認めたケースがあり(疎甲第二七号証)、これと同種の多くの確定した判例があり、これが本件にも妥当する(疎甲第二八乃至三一号証)。

(一一) 申立人らは、従来、知花支援に反対する右翼と実力抗争したことはないし、かかる意図もなく、ただ平穏に本件集会を開催し多くの市民、学生、労働者を集めて、これを成功させることのみを念じており、集会に角材や凶器をもっていく計画など全くない。また関西の右翼その他集会の反対者は、言葉によるイヤガラセ以上に実力行使をするほど盲目ではないし、警察の許可と容認がないのに、多数の右翼の宣伝カーが集まったり街頭宣伝の枠をこえて、女子、高齢者も多く含まれる本件集会に乱入するなどという具体的危険もないし、明白かつ現在の重大かつ具体的な法益侵害の虞れはないし、市民が乱闘の巻きぞえになる危虞はない。また集会の始まる午後五時半以降は三階図書館は閉鎖されており、二階も合計一〇二名の成人の集会に使われるだけであり、一階の各室は五〇〇名の集会や予備室にあてられる予定となっており、集会の主催者や参加者は、二階利用者と敵対的な関係はないのにこれに迷惑をかける意図も背景もない。従って、本件では公安を害するおそれや、他の使用者に迷惑を及ぼすおそれや建物又は付属設備を損傷するおそれや、管理上の支障その他不適当と認める事由は皆無である。

一旦許可された屋内集会の許可を取り消すための要件は、集会表現の自由の重要性から、既述のとおり、明白かつ現在の重要かつ具体的な危険がありかつ回避措置がない場合でなければならないのであって、この内在的な制約を無視した安易な許可取消処分は許されない。

(一二) なお、被申立人の引用する疎乙第二七号証の泉佐野市民会館使用拒否処分は、許可取消事案ではなく、また、疎乙第二四号証、同二五号証の東京及び京都地方裁判所判例はいづれも公安条例による街頭の大衆示威運動(=デモ)に関するものであって屋内集会とは異なり、いうまでもなく大衆示威運動の場合は交通及び街路を通行する多数の人々の安全に影響を与えるので、別途の考慮がされているものであり、本件には関係はない。

四、被申立人の主張するような、根拠のない薄弱な情報によって一旦許可された集会がいとも容易に取り消されるなら、多数を集めてする申立人らの平穏な屋内集会は半永久的に関催不可能なことになり、右翼が妨害に来るかも知れないという情報で何らこれに過失や責任のない申立人らは、集会、表現の自由を行使出来ず、公権力の取消処分による基本的人権を侵害されることになる。

平穏な屋内集会を適法に行なわんとする者は、その思想、信条、身分、所属の如何を問わず、仮に右でも左でも中道でも集会の自由は保障されているのであり、反対者が妨害にいくとか混乱させるとかいう責に帰すべからざる事由や情報によって故なく、集会の自由を侵奪することは許されない。

五、申立人の執行停止申立は、本案において、全く正当であり、これを認めないと、申立人の政治的、社会的活動は不可能となり、申立書第五の二に記載の如く、回復困難な重大な損失が生じ、緊急の必要性がある。

よって、申立のとおりの決定を求める次第である。

別紙(三)

意見の趣旨

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

との決定をされるべきである。

理由

一 大阪市立港区民センター

大阪市立港区民センター(以下区民センターという。)は、子供からお年寄りまでが気軽に集り、ふれあいの輪、コミュニティの輪を広げていくことにより地域住民のコミュニティづくりの場とするべく、市民一般の集会及び健全な各種行事の用に供することを目的として大阪市区役所附設会館条例に基づき設置されたもので、地域住民の公共の福祉の増進を図ることを目的とした地方自治法第二四四条に規定する公の施設に該当し、その管理については、被申立人が使用の許可、同取消等の行政処分を行うほか、財団法人港区コミュニティ協会に施設の管理委託を行っているところである(疎乙第一号証、第二号証並びに第六号証の一及び二)。

区民センターは、五〇〇余名収容のホール、五つの集会室その他講習室、研修室を備え、年間を通じて各種の会議をはじめとして、各町会の会合や趣味の集い、結婚式等に利用されており、また、ロビー部分は地域の人々の憩いの場として広く利用されているところであり、会議室等の使用に限っても、その利用者数は昭和六二年度において一〇一、四九三人にものぼり、港区民のコミュニティの拠点として欠くことのできない施設となっている(疎乙第一号証乃至第三号証、疎乙第一一号証及び検疎乙第一号証)。

また、区民センターは鉄筋コンクリート造一一階建建物の一階及び二階部分に設置されているものであるが、同建物の三階部分には大阪市立港区書館(その入口は区民センターと同じである。)が併設されて子供たちを中心としていわゆる「まちの本棚」として活用されているほか、同建物四階から一一階部分は分譲住宅となっており、現在四八世帯一七二人の住民が入居し、その生活の本拠としているところである(疎乙第一号証乃至第三号証、疎乙第一一号証及び第二一号証)。

また、本件施設は、交通量が非常に多い築港深江線(中央大通)と大阪市道第一七二号線の幹線道路の交差点に位置し、施設の西側には高層マンションが隣接し、東側には診療所や一階は一般店舗、二階以上を住宅部分とするいわゆる下駄ばき住宅が隣接しているほか、付近に住宅、学校、公園等が存しているという、一般的な、平穏な市民生活が営まれている区域に存しているのであり、前面道路は、本件施設利用者のほか買い物やJR、地下鉄の各弁天町駅の乗降客の通行路、それに弁天小学校、市岡中学校の児童、生徒の通学路ともなっている(疎乙第四号証、第一一号証及び検疎乙第一号証)。

二 区民センターの使用許可

申立人は、本年七月二八日にホールを「集会」(以下本件集会という。)目的で本年九月一七日午前九時から午後九時までの間使用したいとして申込を行い、被申立人は同日これを許可した(疎乙第七号証の二)。

また、申立人は、本年八月二五日に、和室を「講演会及び集会」目的で本年九月一七日午前九時から午後九時までの間、集会室一、二を同様の目的で本年九月一七日午後五時から午後九時までの間使用したいとして申込を行い、被申立人は同日これを許可した(疎乙第七号証の三及び四)。

三 使用許可後の本件集会に対する現在までの諸事情

(一) 右集会室二室と和室の使用許可後区民センターが入手するに至った申立人配付のビラ(疎乙第八号証の一)において「権力、右翼の攻撃を打ち破り知花裁判闘争に勝利しよう」等と記載されていたことから、集会が平穏裡に行われるものか否かに危惧の念を抱き、過去に同種の会合が開かれた例を調査したところ、後述四の如く施設内外に著しい混乱を惹起せしめる集会であることが判明した。

(二) また、右配布ビラにより本件集会の存在を知り、混乱を恐れる区民の一部から集会開催に反対の意見が表明されるとともに、本件集会の情報を入手した本件集会に反対するいわゆる右翼団体その他の団体(以下反対団体という。)からも執ような反対意思表明がなされ、九月に入り反対団体の街頭宣伝車が区民センター周辺において街頭宣伝を開始し始めると、周辺住民から不安を訴える声が相次ぐようになった(疎乙第一〇号証及び疎乙第一一号証)。

ことに集会開催を知った反対団体は、八月二九日にまず港区役所に押しかけてきて集会に対する使用許可に抗議するとともに全国の反対団体に呼びかけを行い、実力行使により集会開催を阻止すべく断固たる態度で臨むことを明らかにし、以来計一〇数団体が本件集会阻止行動を取ることを明らかにして市役所、区役所に抗議してくるとともに九月三日以降街頭宣伝車をだして区民センター周辺で騒ぐなどの行動にでてきている(疎乙第一一号証及び疎乙第二二号証)。

(三) このような状況に鑑み、被申立人は、昭和六三年九月四日に主催者側を代表する申立人蔭山弘子、国賀祥司、瀬川博外二名と面談のうえ本件集会が混乱を惹起し、会場施設の他の利用者に多大の迷惑をかけ、区民センターの損傷等が予想されるのみにとどまらず、付近住民を混乱に巻き込むおそれが強いこと等から、何とか区民センターでの集会を中止するよう要請したものであるが、申立人らはこれに同意せず、却って反対団体の攻撃に対しては自分らの力でこれを撃退するなどと暴力的な対応も辞さないとする態度を示すに至った(疎乙第一一号証)。

また、集会開催をあくまで断行しようとする主催者側は街頭でビラをまいているが、被申立人側の開催中止申し入れに対しては反対勢力に対し自分らの力で断固これを撃退するとの姿勢を変えていない。従って、九月一七日に本件集会が開催された場合、過去の開催状況等に鑑み、主催者側と反対団体の衝突の可能性が高いと警察においても判断しており、当日は厳戒体制がとられることになっている(疎乙第二三号証)が、警察の警備が行われたとしても、過去の例が示すように両派の乱闘等により施設周辺において混乱が生じることは明らかである。そして、付近住民は来たるべき九月一七日の混乱あるいは当日までの反対団体による反対宣伝行動について不安を抱いており被申立人に対し真剣に開催中止を求めてきている(疎乙第一〇号証及び疎乙第一一号証)。

(四) そして、九月八日にも主催者側と面談したところであるが、集会の中止の要請は全く受け入れられるところではなかったので、被申立人は熟慮の結果後述の理由により、同日右使用許可の取消しを行った(疎乙第九号証)。

四 本件集会の性格

(一) 申立人等が本件会場を使用して行う本件集会の内容、目的は、申立外知花昌一氏(以下申立外知花という。)の裁判支援に関するものである(疎乙第八号証の一)が、過去に申立外知花を支援する趣旨の集会としては、次の四件が存することが調査の結果判明した。

(二) 過去の集会とその実情

1 昭和六三年四月一七日「第一一回沖縄民権祭」

右集会は、沖縄民権の会主催で、東京都文京区所在の全日本水道労働組合会館において開催されたものであるが、その内容は、昭和六二年一〇月二六日に沖縄国民体育大会会場で日の丸を焼き捨て、器物損壊罪等で起訴された申立外知花の支援等を目的としたもので、その中心は同氏の講演等であった。

この集会は、申立外知花の前述した行為に反対する団体(約三〇団体、一三〇名)が集会開催二時間前から街頭宣伝車二〇台乃至二五台を繰り出し、会場周辺をボリュームを最高にしたスピーカーでアジ演説、シュプレヒコールを行う一方、主催者側もこれに対抗して会場防衛要員を配置し、警察官が両者の衝突を防ぐべく厳戒体制を敷くという騒然とした異常な状況下で行われたのであるが、多数の警察官による警戒にもかかわらず、反対団体の一部が会場入口に向かった際投石されたことを契機に、反対団体と右防衛要員との間で乱闘となり、負傷者及び検挙者が出るところとなった。

また、右集会にはいわゆる中核派(以下中核派という。)活動家が多数参加し、上記乱闘に加わったところである(疎乙第一三号証の一及び二)。

ところで、右集会の会場となった全日本水道労働組合会館の管理者は、右集会によって著しい混乱が生じるおそれがあることを集会開催の直前になって知り、集会の中止を要請したところであるが、拒絶され、やむなく使用を認めたのであるが、混乱を防止すべく使用の条件としてヘルメット、マスクの着用及び竹棒等の持ち込みを禁止したが、当日の入場者はいずれもヘルメット、マスクを着用し、その条件は遵守されなかった(疎乙第一二号証)。

2 昭和六三年六月一八日「知花昌一さんと連帯する集会」

右集会は、宮城・知花昌一氏のたたかいに連帯する会主催で、仙台市所在の宮城県労働福祉会館において開催されたが、その内容は前記1同様申立外知花の講演会であった。この集会においても、反対団体構成員約三〇人が押しかけ、会場周辺でシュプレヒコール等反対行動を行い、一方主催者側も会場防衛要員を配置し、警察官も約五〇人出動し、警戒体制を敷いたのであるが、反対団体の構成員が入場券を手にして会場内に入ろうとしたところ、主催者側の防衛要員との間で乱闘となり、双方合わせて七人が暴行行為、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕されるとともに、会場の窓ガラスも乱闘の際割られ、館側も被害を受けたところである。

この乱闘においても主催者側でこれに加わったのは前記1同様中核派のグループが中心である(疎乙第一二号証及び疎乙第一四号証)。

3 昭和六三年六月一九日「三里塚・天皇・安保・沖縄をたたかい日帝の戦争体制と対決する6.19集会」

右集会では東京都所在の明治公園で中核派グループ等による決意表明等がなされたところである。

この集会直前においては、警察官に対し、暴行を加えた集会防衛隊の二人が逮捕され、また右集会に参加し、発言を行った申立外知花に対し集会にもぐり込んだ反対団体の構成員が暴行を加え、逮捕されている(疎乙第一五号証の一及び二)。

なお、右集会においては中核派と対立するカクマル派に対して、総せん滅・一掃を内容とする戦闘宣言が発せられている(疎乙第一五号証の三)。

4 昭和六三年六月二二日「知花氏支援総決起集会」

右集会は平和のための読谷村実行委員会が主催して申立外知花等の那覇地方裁判所における刑事訴訟の第五回公判前に、同裁判所前で開催されたものであるが、同集会では前記2、3の集会の報告及び支援者の決意表明が行われた。

それに引き続き行われたデモ行進に対し、反対団体が街頭宣伝車よりスピーカーでシュプレヒコール等を行うとともに、支援団体としてデモ隊を守る防衛隊と衝突し、二名が逮捕されたものである(疎乙第一六号証)。

(三) 右四件の集会は、主催者名は各々異なるが、ともに集会に付された名称は申立外知花を支援する内容のもので、集会の目的内容は同一であり、その参加者、支援団体も志を同じくするものであって、いずれも中核派が支援参加している。区民センターでの申立人が代表者として予定されている集会も、その目的、内容は右四件の集会と同一であり、従って参加者及び支援団体も同一で中核派グループが参加することは明らかである。

このことは、本件集会の代表者である申立人及び呼び掛け人として名を連ねる国賀祥司が中核派の活動家と見られている(疎乙第一九号証及び疎乙第二〇号証)こと、そして本件集会参加呼び掛けのビラにおいて「沖縄県民のたたかいと連帯し、沖縄―三里塚―関西新空港―北富士―三宅島などをつなぐ全国的な反戦、反基地闘争を大きくつくり上げて行く」云々と中核派と同様の主張を行って、参加を呼び掛け(疎乙第八号証の一及び疎乙第一八号証)、申立外知花支援を右一連の運動の一環としてとらえているところ、右一連の運動の中の関西新空港反対運動闘争として行った右呼掛人国賀の泉佐野市会議員選挙立候補を中核派グループが支援したことからも明白である。

しかも、中核派グループが反対団体に備えての防衛隊の中心としての役割をになうことは過去の例から明らかと言えるところ、前記被申立人の担当者が申立人及び申立外国賀らと面談した際、申立人らが「反対団体の攻撃に対しては自分等の力で撃退する」と言明していることから本件集会においても同様の防衛隊が組織されることは明らかである。

また、港警察署は被申立人が警備に関して相談した際、本件集会が中核派系の集会であるとの見解を示している(疎乙第二三号証)。

五 中核派は、昭和六〇年四月一二日には、成田、羽田両空港に爆発物を発射し、施設、車両に被害を与え、同年一〇月二〇日には成田市内で警察官、機動隊に対し、丸太をもって突き当たり、また火炎ビンや砕石を投げたり、鉄パイプで殴りかかるほか警察車両に放火するなど集団武装闘争を行い、また同年一一月二九日には国鉄施設三四ヵ所の通信・信号ケーブルの切断あるいは放火を行い、ごく近時では昨年三月一四日に東京、千葉、埼玉、茨城の一都三県で成田空港関連業者の作業所など五ヵ所に爆発物を仕掛け、負傷者をだしたほか、本年一月一八日には新東京国際空港に向けて爆発物を発射し、大惨事を招きかねない事件を起こしているのであり、警察庁は同派を極めて闘争的、暴力的集団と見ている(疎乙第一七号証の一及び二)。

六 取消しの理由

(一) 本件使用会館を取消したのは次の理由による。

1 公安を害するおそれがあること

前記のとおり、中核派グループが支援団体として参加することや、申立人ら主催者側の本件使用許可後の言動、本件集会を阻止しようとする反対団体の動向から、本件集会が開催された場合、次のように公安を害するおそれがある。

反対団体は実力で断固本件集会を阻止するとしており、一方、本件集会参加者らは、警察を権力側として敵視し、反対団体に対抗し、自らの力で断固これを撃退すると言明しているのであるから、警察がいかに厳重に警備体制を敷いたとしても、両者の衝突を防ぐことは過去の例が示すように困難であり、加えて主催者の一員として中核派グループが武装して反対団体と対じすることは明らかであるから、乱闘その他の暴力行為が展開される危険性が極めて強く、さらには、区民センター南側道路は通学、通勤その他生活の用に供されており、通行人は多く、このような市民や当日本件施設を使用する他の市民(過去の例から集会開催前においてもトラブルが生じているが、本件集会が開催される午後五時三〇分以降でも三団体一〇二名が使用予定(疎乙第五号証))が何の関係もないに拘らず、右乱闘等の巻き添えになる危険性がある。

また、集会阻止を叫ぶ反対団体の街頭宣伝車が区民センター周辺に集結することから、周辺の交通は著しく阻害され、交通障害による混乱、付近住民車両又は一般通行車両との摩擦の発生が憂慮されるとともに、ボリュームいっぱいにその主張を街頭宣伝するため、区民センター上階に居住する人々その他区民センター周辺で居住する市民の平穏な生活を著しく乱し、付近の診療所、店舗等の利用者についても多大な苦痛を与える事態になることは必至といわざるをえない。ちなみに九月四日に反対団体の街頭宣伝車五台が区民センター前で街頭演説をしたが、区民センター前の道路が交通量の非常に多い幹線道路であるため、たちまち交通整理を要する状態となっている(疎乙第一一号証)。

2 他の使用者に迷惑を及ぼすおそれがあること

本件集会のほかに当日区民センターにおいては、区民等による会合等が行われることになっており(疎乙第五号証)、本件集会が実施されれば乱入しようとする反対団体とこれに力でもって対抗しようとする主催者側とに前述の如き混乱を当然に惹起せしめることから、当該他の利用者らが平穏に区民センターを利用することは不可能となることは明らかである。

また、幸いにも乱闘等の混乱が惹起されずとも、本件集会参加者と反対団体との衝突を防ぐため警察の警備対策による区民センターの利用規制により区民等の利用が妨げられるだけでなく、ヘルメット、マスクを着用した中核派集団を中心として、主催者側が多人数で集会防衛と称して、関係者以外の本件施設への入場を認めようとしない体制を敷くことは明らかであるから、区民センターの他の利用者を畏怖せしめ、及びその入退場が著しく困難になり、迷惑を及ぼすことになるのは必然である。

さらに、集会施設を使用する者のほか、区民センターが区民のコミュニティの場として区民に開かれた施設であるところからロビー等を利用する一般利用者、特に児童が多く(疎乙第一一号証)、これらの人々の利用を著しく阻害することも明らかといわなければならない。なお、直接区民センターの利用者ではないが、区民センターと入口を同じくしている三階部分にある大阪市立港図書館の利用者についても同館の閉館時間が午後五時になっているものの、本件集会開催までに生じる混乱等のためその利用に支障が生じることは明らかである(ちなみに、東京都の全日本水道労働組合会館で行われた集会は開催二時間前から騒然とした状態が惹起され、宮城県における集会では、反対団体と主催者側との衝突は集会開催一時間前に起こっている(疎乙第一三号証の一及び疎乙第一四号証))。

3 建物又は付属設備を損傷するおそれがあること

前述のごとく主催者側、反対団体の衝突により、区民センター入口附近の設備が損傷し、あるいは集会内に潜り込んだ反対団体等と主催者側との暴力行為により会場内設備が損傷するおそれが明らかに存する。

4 管理上の支障その他市長が不適当と認める事由があること

主催者側は反対団体や警察に対し敵意を抱き、自力で防衛する意識が強く、施設管理上必要な指示を行ったとしても容易にこれに従わないことは過去の例を見ても明らかである。

また、本件施設で行われる他の集会の平穏で安全な開催や、他の利用者の生命、身体の安全を配慮した管理に支障があることは明白である。

そして、本件施設は区民のコミュニティを醸成するための施設として区民と共に歩む必要があるところ、区民センターの設置の目的趣旨と何ら関係ない集会の使用のため、附近住民に生命、身体の危険を生ぜしめ、多大な迷惑を及ぼすことは、区民センターの設置目的、趣旨にそぐわない不適当な利用というべきである。

(二) さらに、過去の事例でも主催者側からの投石行為で乱闘となったものがあるように、混乱の原因は単に反対団体の行為にのみ起因するのではなく、申立人、主催者側の暴力を肯定する姿勢、中核派等闘争的暴力的集団が参加していることにも起因しているのである。

(三) 以上のとおり、申立人の区民センターの使用には、大阪市区役所附設会館規則第四条に該当する事由が存在することは明らかであり、被申立人の本件処分は適法で、何らの法令にも違反するものではない。

七 本件執行停止決定申立による執行停止は、行政事件訴訟法第二五条第三項により執行停止できない事由がある。

(一) まず、本件処分の執行を停止することは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。

申立人らの本件集会の参加団体に中核派グループが含まれており、中核派が過去において屡々公共の安寧秩序を害しているところ、本件集会にかかる中核派が相当数参加することは明白であり、前記六(一)1で述べたごとく本件集会の実施により公安が害されるおそれが強いことは明らかである。

したがって、本件申立ては、行政事件訴訟法第二五条第三項に「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に該当するものである(区役所附設会館に関する大阪地方裁判所昭和五〇年七月二日決定(疎乙第二六号証の一)、同即時抗告に対する大阪高等裁判所同月三日決定(疎乙第二六号証の二)、関連新聞記事(疎乙第二六号証の三)、中核派が支援する関西新空港反対派住民による泉佐野市民会館使用申請に対する拒否処分に関する新聞記事(疎乙第二七号証)、その他公安条例に関する東京地方裁判所昭和四三年四月八日決定(疎乙第二四号証)、京都地方裁判所昭和四四年一月二八日決定(疎乙第二五号証)等)。

(二) 本件執行停止申立ては本案について理由がない。

前記六で述べた理由により被申立人は使用許可処分を取り消したものであるが、当該理由は大阪市区役所附設会館規則第四条において使用許可取消事由として掲げるものであり、同規則の趣旨に則った措置であって、被申立人が申立人に対してした右区民センターの使用許可の取消処分に何ら違法なところはなく、「本案について理由がない」とみえることは明らかである。

(三) ところで、申立人は、市民に利益を付した行政処分の撤回には重大な制限があり、これを無視した本件取消処分は違法であると主張する。

しかしながら、仮に本件取消処分が撤回にあたり、申立人の主張するように行政処分の撤回に制限があるとしても、本件不許可処分により申立人らが受ける利益を超える公益上の必要性がある場合は、右処分を撤回することができるものと解すべきである。

この点、既に述べたように本件許可後被申立人の調査により、本件集会が開催された場合、区民センター周辺の住民の生命、身体に危険を生ぜしめ、かつ平穏な生活を著しく乱し、また申立人らと同様言論、集会等の自由を享受すべき区民センターの他の使用者の権利行使に著しく支障が生ずると判明した本件においては、このような事態の出現を認めることは著しく公共の福祉に反するところであり、これを阻止する必要性は申立人らの受ける利益を保護する必要性を上回ることは明らかである。

(四) なお、申立人は言論、集会の自由を主張するが、言論、集会の自由は最大限尊重されなければならないことは被申立人においても十分理解しているところである。

しかし、前述のとおり、申立人らの集会と目的、内容を同じくする過去四件の集会において、支援参加した中核派グループと集会を阻止しようとする反対団体との間で、衝突、乱闘騒ぎが起こっており、本件集会も、中核派の支援参加が明白であり、現に反対団体による本件集会阻止の動きもあることから、過去四件の集会と同様、両者間に衝突、乱闘騒ぎが起こることは明白である。

したがって、本件集会が開催されることにより本件区民センター周辺の平穏が害されるという明白かつ現在する危険が存在するものといえ、かかる本件集会に対し区民センターの使用許可を取り消すことは公共の福祉に適う措置であり、何ら違法なものとはいえない。

また、申立人らは集会の場所の選定にあたり、右過去の実情を考慮し、集会所及びその周辺の平穏を害することにより集会所での他の集会や利用者及びその周辺住民に迷惑が及ばないように配慮して集会場所を選定決定すべきである。かかる配慮をすることなく、区民センターのように同時に各種集会や会議が行われ、また他の施設が設置されていて、多数の利用者が認められる場所を集会場所として選定した本件においてはこれら集会参加者の「集会の自由」により、自らの集会の自由に制限を受けることは当然のことである。

ことに、申立人らの集会が原因で当日区民センターでの他の集会や利用の自由が制約されるだけでなく、当該集会参加者、利用者及び通行人の生命、身体に危害が及ぶおそれがあるのであるから、申立人らの集会による使用を取り消すことは、申立人らの集会の自由に内在する制約として適法であり、また平等の原則を実質的にも保障するものである。

八 申立人らには本件許可の取消しからくる回復困難な損害はない。

申立人らの本件集会は必ず区民センターにおいて、また、どうしても九月一七日に開催されなければ集会の目的が達せられないという性格、内容のものではない。かえってその闘争的体質から危険を内在する申立人らの本件集会の開催を認めたため、何の関係もない付近住民、区民センターの他の利用者等に不測の事態を生ぜしめ、本当に回復しがたい損害をもたらす事態を招くことに鑑みれば、申立人は本件許可の取消しからくる回復不可能な損害の主張をなしえないものと言うべきである。なお、被申立人は右に述べた理由から本件集会の実施については中止を求めるべく集会予定日の九月一七日の二週間前である九月三日に申立人らに対し使用許可取消しの方向を告げるとともに同月四日に面談のうえ、本件集会の区民センターにおける中止を要請しているものであり(本件許可の取消通知は九月八日発送)、他の代替会場を探すことも可能であったといえる。しかるに、申立人の意思において断固区民センターでの開催にこだわり、代替施設を探さなかったものであり、代替施設をみつけておれば、九月四日の面談の結果を含むビラを九月六日早朝に街頭配布し、その後もビラを続けて配布し得る申立人らの広報力に鑑みれば、当該変更の周知も容易になし得たものと思われる(疎乙第八号証の二乃至四)。

九 以上のとおり、本件申立ては執行停止の各要件を欠くものであるから、速やかに却下されるよう意見を申し述べる次第である。

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